技術コラム
RoHS対応のネジとは?六価クロムからの代替と表面処理・材質の選定ポイント

しかし、「RoHS指令に対応したネジってどう選べばいいの?」「六価クロムの代替って何があるの?」といった疑問を持つ担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ネジの専門家がRoHS指令の基本から、ネジに求められる理由、そして六価クロムからの代替となる表面処理や材質の選定ポイントまでを詳しく解説します。また、標準品では見つからないRoHS対応ネジを特注で製作する際のポイントについてもご紹介します。
RoHS指令とは?なぜネジにも対応が必要なのか
近年のグローバルな製造業において、環境規制への対応は企業にとって重要な課題です。その中でも、電気・電子機器に関わる事業者が必ず理解しておくべきものに、EU(欧州連合)が定めるRoHS指令があります。本指令は、製品に含まれる特定の有害物質の使用を制限し、環境汚染の防止と人の健康保護を目的としています。
RoHS指令の概要と目的
RoHS指令は、英語の「Restriction of Hazardous Substances」の略称で、日本語では「特定有害物質使用制限指令」と訳されます。この指令の核心は、電気・電子機器における特定の有害物質の含有を原則として禁止する点にあります。2006年に最初の指令が施行されて以来、対象製品や規制物質の拡大といった改正が重ねられており、製造業者は常に最新の動向を注視する必要があります。最終製品のメーカーは、自社製品がRoHS指令に適合していることを宣言する責任を負います。
グローバルサプライチェーンにおけるRoHS指令の重要性
RoHS指令はEUの規制ですが、その影響は世界中に及びます。現代の製造業はグローバルなサプライチェーンで成り立っており、最終製品がEUへ輸出される場合、それを構成する全ての部品や材料が指令の要求を満たさなければなりません。そのため、日本の部品メーカーであっても、自社製品が組み込まれる最終製品がEU市場に流通する可能性がある限り、RoHS指令への対応は必須となります。
なぜ「ネジ」にもRoHS指令への対応が求められるのか
ネジは単体で電気・電子機器の機能を持つわけではありませんが、それらを構成するために不可欠な「構成部品」です。最終製品メーカーがRoHS指令への適合を宣言するには、使用されている全ての構成部品が規制物質を含有していないことの証明が求められます。もし構成部品であるネジ1本でも規制値を超えれば、最終製品は指令非対応と見なされます。そのため、調達するネジに対してもRoHS指令への適合性を厳しく求めます。
ネジにおけるRoHS指令の規制対象物質とは
調達購買担当者として適切なサプライヤー管理を行うためには、具体的にどの物質が規制対象であるかを正確に把握しておく必要があります。現行のRoHS指令(通称 RoHS2)では、合計10種類の物質が規制対象として定められています。
RoHS指令で規制される10物質
規制対象となる10物質と、製品内の均質材料中に含まれても良いとされる最大許容濃度は以下の通りです。特にカドミウムは他の物質よりも厳しい基準値が設定されている点に注意が必要です。
- 鉛 (Pb):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- 水銀 (Hg):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- カドミウム (Cd):0.01 wt% (100 ppm) 以下
- 六価クロム (Cr6+):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- ポリ臭化ビフェニル (PBB):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- ポリ臭化ジフェニルエーテル (PBDE):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- フタル酸ジ-2-エチルヘキシル (DEHP):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- フタル酸ブチルベンジル (BBP):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- フタル酸ジ-n-ブチル (DBP):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
- フタル酸ジイソブチル (DIBP):0.1 wt% (1000 ppm) 以下
特に注意すべき六価クロム、カドミウム、鉛
上記10物質の中でも、ネジの「材質」や「表面処理」の工程で、意図的あるいは非意図的に含有されるリスクが高いのが、以下の3つです。
六価クロム (Cr6+)
六価クロムは、鉄鋼製品の防錆を目的としたクロメート処理の主成分として、長年にわたり広く使用されてきました。優れた耐食性と美しい外観を比較的安価に実現できるため、多くのネジに採用されていましたが、人体への発がん性が指摘されるなど毒性が強く、環境負荷が高い物質です。RoHS指令への対応において、この六価クロムを含む表面処理からの転換が、ネジ業界における最も大きな課題の一つとなりました。
カドミウム (Cd)
カドミウムは、黄銅(真鍮)などの銅合金において、被削性(切削加工のしやすさ)を向上させる目的で意図的に添加されてきた歴史があります。しかし、人体に蓄積しやすく極めて毒性が高い(四大公害病の一つであるイタイイタイ病の原因物質)ことから、RoHS指令では最も厳しい規制値が設けられています。
鉛 (Pb)
鉛もまた、快削鋼や黄銅などの金属材料において、被削性を向上させる目的で添加されることがあります。鉛は人体、特に神経系への毒性が問題視されており、RoHS指令の規制対象となっています。快削鋼製のネジを選定する際には、鉛を含まない「鉛フリー材」であるかの確認が重要です。
これらの物質を含有しない材料を選定し、適切な表面処理を施すことが、RoHS指令に対応したネジを調達する上での前提となります。
なぜ六価クロムクロメート処理は主流だったのか
鉄鋼製品であるネジにとって、錆の発生を防ぐ「防錆性能」は最も重要な品質要素の一つです。その防錆を目的として、電気亜鉛めっきの上に施される化成処理が「クロメート処理」です。中でも六価クロムを含有するクロメート処理は、長年にわたりネジの表面処理における主流技術でした。その理由は、以下の優れた特性にあります。
- 極めて高い耐食性
六価クロムは強力な酸化剤として働き、亜鉛めっき表面に安定した不動態皮膜を形成します。これにより、錆の原因となる酸素や水分の侵入を効果的に遮断し、長期間にわたって高い防錆性能を維持します。 - 自己修復性
六価クロムクロメート皮膜の最大の特徴とも言えるのが「自己修復性」です。皮膜に微細な傷がついても、皮膜中に含まれる水溶性の六価クロムイオンが溶け出し、傷の部分で再び不動態皮膜を形成して錆の進行を防ぎます。 - 安定した品質と低コスト
技術として成熟し処理方法が確立されていたため、品質のばらつきが少なく、かつ安価に大量生産が可能でした。特に、光沢のある銀白色の外観を持つ「ユニクロめっき(光沢クロメート処理)は、その美観と性能から最も広く普及した処理の一つです。
RoHS対応ネジを選定する際の2つの重要ポイント
RoHS指令に適合したネジを選定する際には、ネジを構成する「材質(母材)」と、その表面を保護する「表面処理」という、2つの側面に分けて考えることで明確になります。
ポイント1:環境対応材質の選定(鉛・カドミウムフリー)
まず大前提として、ネジの母材そのものにRoHS指令で規制される有害物質が含まれていては、いかに環境対応の表面処理を施しても意味がありません。特に注意すべきは、被削性(加工のしやすさ)を向上させる目的で、従来は意図的に添加されていた鉛とカドミウムです。
・ECO-FE(鉛フリー快削鋼)
近年の地球環境保護の観点から、環境に悪影響を与える可能性がある元素を低減、あるいは含有しないニーズに対応した地球環境にやさしい鋼種です。
・ECO-BS(カドミレス黄銅) ECO-BS(低カドミレス黄銅)
RoHS指令に対応した材質です。
ポイント2:六価クロムフリー表面処理の選定
適切な材質を選定した上で、次に重要となるのが表面処理の選定です。現在、主流となっている代替技術には、以下のようなものが挙げられます。
・三価ホワイトめっき(三価クロムクロメート 白色)
従来の有色クロメートと同等の耐食性が得られます。六価クロムと違い、無害で六価クロムのような擬似的な自己修復性を持ちます。
・三価ブラックめっき(三価クロムクロメート 黒色)
従来の有色クロメートと同等の耐食性が得られます。六価クロムと違い、無害で六価クロムのような擬似的な自己修復性を持ちます。
・ノンクロム ホワイトめっき(ノンクロム亜鉛めっき 白色)
六価、三価クロムを全く含みません。人と環境にやさしい防錆処理を行っています。傷が付いても自己修復作用があり、有色クロメートと同等の耐食性を持ちます。色調は有色クロメートと光沢クロメートの中間色。
・ノンクロム ブラックメッキ(ノンクロム亜鉛めっき 黒色)
六価、三価クロムを全く含みません。人と環境にやさしい防錆処理を行っています。傷が付いても自己修復作用があり、有色クロメートと同等の耐食性を持ちます。色調は黒色。
・ジオメット処理(ダクロタイズド処理の代替品)
環境負荷物質である六価クロムを有していません。耐熱性、耐食性に優れ、水素脆性の心配がない薄膜防錆処理は、ネジ、ボルトの表面処理に適しています。
・ディスゴ処理(ラスパート処理の代替品)
高張力ボルトなど、水素脆性による遅れ破壊が生じては支障をきたす鉄鋼製品向けに開発されたクロムフリーの高耐食性表面処理技術です。燐片亜鉛を主成分とするベース塗料と、有機(エポキシ)または無機(珪酸塩)の樹脂を主成分とするトップ塗料を被処理物に浸漬またはスプレーで塗布後、180度から300度で加熱処理します。
・三価ステンコート(ステンコートの代替品)
六価クロムと違い無害です。亜鉛ーニッケル合金メッキであるジンロイを下地に三価クロムクロメート処理を施し、その上に無色透明の防錆コーティング剤であるKコートを施したものです。鉄素材にステンレス色の外観と、ステンレス(SUS410)と同等以上の高耐食性が得られます。
・デルタプロテクト処理(ダクロタイズド処理の代替品)
六価クロムも三価クロムも一切含まないRoHS指令、ELV指令対応の環境配慮型クロムフリー防錆塗料です。ドーゲンMKSシステム社が開発した電気方式ではない薄片亜鉛コーティング(膜厚:5-15ミクロン)で、水素脆性による破壊の危険性はありません。
当社だから可能なRoHS対応の特殊ネジ製作
RoHS指令への対応が必要な場合、一般的には規格品の中から適合するネジを探すことになります。しかし、特殊な形状やサイズ、あるいは特定の機能性が求められる場合、規格品だけでは課題を解決できないケースが少なくありません。当社は、こうした規格品では対応不可能なRoHS対応の特殊ネジ製作を最も得意としております。
1本からの試作、難削材加工にも対応
新製品の開発段階や、既存設備の補修部品など、「まずは少量の試作品で評価したい」というニーズは非常に多く存在します。当社では、このようなご要望にお応えするため、RoHSに対応した特殊ネジを1本から試作することが可能です。これにより、お客様は量産前の検証を低リスクで行うことができます。 さらに、私たちの技術力は材質を選びません。ステンレスはもちろんのこと、チタンやインコネルといった加工も可能です。ポンチ絵からの図面化や、現物を基にしたリバースエンジニアリングにも対応しており、他社では断られてしまうような高難度の案件にも積極的に挑戦します。
加工から表面処理までの一貫生産管理体制
特殊なネジを調達する際、「加工はA社、表面処理はB社」といったように、工程ごとに発注先が分かれると、品質管理や納期調整が煩雑になりがちです。当社では、ネジの加工から、本コラムでご紹介した多様なRoHS対応表面処理、ジオメット処理(ダクロタイズド処理)のような特殊な処理まで、全ての工程を一元管理する一貫生産体制を構築しています。 窓口を一本化できるため、お客様の手間を大幅に削減できるだけでなく、工程間の連携がスムーズになり、リードタイムの短縮にも繋がります。
製品事例
RoHS対応 六角ボルト

こちらは、食品機械に使用される六角ボルトの事例です。お客様より「食品と接触する可能性のある箇所に部品を取り付けたい」というご要望をいただき、RoHS対応が必須条件でした。
当社では、対応する材質・メッキを調査し、お客様のニーズに合致する条件をご提案。RoHS証明書をご提供することで、安心してご使用いただける製品を実現しました。
RoHS対応ネジのことなら、特注ネジ加工・製作センター.comにお任せください。
本記事では、RoHS指令の概要から、ネジにおける具体的な規制物質、そして代替技術を選定する際の重要ポイントについて詳しく解説してまいりました。 グロバルな事業展開が不可欠な現代において、RoHS指令への対応は、もはや単なる規制遵守以上の、企業の信頼性と競争力を担保する重要なポイントとなっています。
「現在使用しているネジのRoHS対応状況を確認したい」
「六価クロムからの最適な代替品を探している」
「コストと環境対応を両立できる特殊ネジを製作したい」
このようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、ご相談ください。