技術コラム
インチネジとは?メートルネジとの違い、種類、当社の製品事例をご紹介!
インチネジとは?
インチネジとは、主にアメリカ合衆国やイギリスなどのヤード・ポンド法を採用している国で標準的に使用されているねじの規格です。その呼び径(ねじの外径)やねじ山一山あたりの長さであるピッチが、メートル法ではなくインチ(inch)を単位として定義されています。
メートルねじがISO(国際標準化機構)によって世界標準として広く採用されているのに対し、インチネジは、古い設備や、アメリカから輸入された機械、特定の産業分野、特に航空宇宙産業や油圧・空圧機器などで現在でも用いられています。
設計者にとって重要な点として、インチネジの規格には、ねじ山を構成するねじ山の角度が55°のものと60°のものが存在し、それぞれ異なる歴史的経緯と用途を持っています。この角度の違いは、ねじの締結の確実性や互換性に大きく影響を及ぼします。
日本国内においても、長年にわたり使用されている機械設備や、国際的なサプライヤーからの輸入部品を扱う際には、このインチネジの知識は必須となります。特に、既設設備のメンテナンスや改修において、規格に合致したインチネジの調達が技術的な課題となるケースは少なくありません。
インチネジとメートルネジ(ミリネジ)の違いとは?
インチネジとメートルネジ(ミリネジ)の最も根源的な違いは、ねじの寸法を規定する基本単位にあり、メートルネジがISO(国際標準化機構)に基づきミリメートル(mm)を単位とするのに対し、インチネジはその名の通りインチ(inch)を基準とするため、互換性は原則としてありません。
技術的な観点から見ると、メートルネジはねじ山角度が60°で統一されていますが、インチネジにはユニファイねじ(UNC/UNF)の60°と、主に古い機械や配管で用いられるウィットねじ(W)の55°の二つの主要規格が存在し、このわずかな角度の違いが締結特性に影響を及ぼします。
また、表記法も大きく異なり、メートルネジが「M8」のように呼び径をミリメートルで示すのに対し、インチネジは「1/4-20UNC」のように分数や番手で呼び径を表します。この異なる単位系と規格が存在する事実は、古い設備や海外製機械のメンテナンス、または特殊な設計要件に対応する際に、規格に完全に合致した特殊なインチネジの調達が、設計者にとって困難な技術的課題となる主要因となっています。
インチネジの種類
インチ規格のスタッドボルトは、その名の通りインチサイズ(inch)を基準としたねじ製品です。インチねじは、太さとピッチ(1インチあたりのねじ山の数)によって規格が定められています。メートル規格のスタッドボルトとは、ねじ山の形状やピッチが異なるのはもちろんのこと、その背景にある規格体系も異なります。
インチねじには、主にユニファイねじとウィットねじの2種類が存在します。現在ではユニファイねじが主流となっていますが、一部の産業や古い規格が残る分野ではウィットねじも依然として採用されています。ユニファイねじとウィットねじは、同じ太さや比較的短い長さのねじであれば、一部のサイズにおいて互換性が見られる場合がありますが、基本的なねじ山の規格が異なるため、原則として別物として扱う必要があります。
ユニファイねじ(Unified Thread Standard)
ユニファイねじは、アメリカ国家規格協会(ANSI)によって定められた統一(unified)ねじ規格です。ユニファイねじには、ピッチの粗さによって主に以下の2つの種類があります。
- UNC(Unified Coarse Thread)
並目ねじと呼ばれ、ピッチが粗いため、ねじ山のかみ合いが深く、緩みにくいという特徴があります。一般的な締結用途に幅広く用いられます。(JIS B 0206:1973 にも規定があります)
- UNF(Unified Fine Thread)
細目ねじと呼ばれ、並目ねじよりもピッチが細かいため、より精密な締結が可能で、緩みにくい特性も持ち合わせています。振動が多い箇所や、より高い締結力が求められる場合に適しています。JIS B 0208:1973 にも規定があります)
ユニファイねじのねじ山の角度は60度です。ただし、アメリカのASME/ANSI規格のねじは、日本のJIS/ISO規格のユニファイゲージで測定した場合、ゲージに入らないことがある点には注意が必要です。
ウィットねじ(Whitworth Thread)
ウィットねじは、イギリスの古い規格のねじです。ユニファイねじとは異なり、日本のJIS規格は1968年に廃止されていますが、一部業界では現在も根強く採用されています。規格を示す記号としては「W」が用いられます。ウィットねじのねじ山の角度は55度です。
インチスタッドボルトの材質は、用途や要求される強度、耐食性などに応じて多種多様なものが用いられます。一般的な材質としては、炭素鋼(S45Cなど)やステンレス鋼(SUS304、SUS316など)があります。
適切なインチスタッドボルトを選定する際には、使用環境、締結する部材の種類、求められる強度などを総合的に考慮し、適切な規格、材質、強度区分を選択することが重要です。
他社で断られやすい特殊なインチねじの製作は当社にお任せください
インチねじの調達において、機械設計者が直面する最大の課題は、既製品カタログにはない特殊な仕様や、古い規格の廃番品への対応です。多くのサプライヤーが標準品や大量生産品を優先する結果、「規格外」「少量多品種」「特殊材質」といった理由でご相談が断られがちです。しかし、特殊・特注ネジの専門家である当社は、これらの困難な課題に対し、柔軟かつ高精度な技術力で対応いたします。
規格外の仕様に対応する当社の技術力
当社は、単なるねじの販売ではなく、特殊ねじの設計・製作を本業としています。この専門性により、一般的な規格表にはない極細目の特殊規格や、難削材とされるチタン合金や高強度ステンレス鋼などを使用したインチねじの製作が可能です。特に、メートルねじの規格品をベースにインチねじのねじ山を追加工したり、頭部形状をカスタム化したりする規格品の追加工についても、熟練した技術者が対応可能です。設計者は、当社の技術力を活用することで、締結特性や使用環境に最適な機能を持つ特殊なインチねじを、妥協することなく調達することが可能となります。
規格不明のねじも再現可能:リバースエンジニアリングによる解決
古い機械のメンテナンスや海外輸入設備で使用されているインチねじは、しばしば図面や規格情報が失われ、現物だけが存在するというケースがあります。このような場合、当社はリバースエンジニアリング技術を駆使して課題を解決します。高精度な三次元測定機器と、長年の経験を持つ設計エンジニアの知見を組み合わせることで、現物のねじの呼び径、ピッチ、ねじ山角度をミリメートル以下の精度で正確に分析し、その仕様を完全に再現することが可能です。この「現物からの高精度な再現力」こそが、「廃番品で困っている」「どこに相談しても断られた」といった設計者の切実な悩みを解決する、当社の強力な差別化ポイントです。
設計段階からQCD向上に貢献するプロフェッショナルな提案力
ねじの選定は、装置全体のQCD(品質、コスト、納期)に直結します。当社は、ねじに精通したプロフェッショナル集団として、お客様の設計段階から技術的な視点で参画し、使用環境や必要な締結特性を分析したうえで、最適な材質や特殊表面処理などを提案するVE(Value Engineering)提案を実施いたします。特殊・特注ネジの製作を通じて、単に部品を納入するだけでなく、お客様の製品の付加価値向上とQCDの最適化に貢献することが、当社の責務であると考えております。
インチネジの製品事例をご紹介!
インチネジスタッドボルト

お客様は製品組み付け用のインチネジを探されていましたが、市販品に指定の長さがなくお困りでした。
当社は社内で全加工にて特注製作することで対応。打ち合わせで「錆びにくいこと」が重要と確認し、材質をSUS304から切削性の良いSUS303に変更するVAVE提案を行いました。これにより、耐食性を維持しつつ加工コストの削減を実現しました。
W1/2×M6 海外・国内製品接続用ネジ変換アダプター

海外製品と国内製品を接続するためのネジ変換アダプターを製作した事例です。お客様のコスト重視のご要望に応えるため、切削性の良い鉄・炭素鋼を採用しました。
規格外の接続問題に対しても、お客様のニーズに合わせた特注対応を迅速に実行。これにより、接続の課題を解消し、お客様の利便性向上に貢献いたしました。
インチネジ 追加工品

こちらは、社内設備の保全部品向けに製作したインチネジの追加工品です。製品組み込み時、頭部が干渉しないよう、お客様より厚みの変更をご要望いただきました。
数量が50本という小ロットであったため、鍛造ではなくNC旋盤での加工が最適と判断。旋盤加工を行うことで、コストダウンと品質の均一化を両立させ、お客様の製品組み込みの課題を解決いたしました。
特殊・特注のインチねじに関する技術相談ならお任せください
本コラムでは、インチネジの基礎知識から、メートルネジとの決定的な違い、そして設計者が直面しやすい特殊規格や廃番品調達の課題について解説いたしました。
もし、貴社が現在、古い機械のメンテナンス用インチねじ、あるいは特殊な材質・形状を要求される新規設計用のインチねじの調達でお困りでしたら、まずは一度、当社のプロフェッショナルにご相談ください。設計の初期段階からのVE提案を通じて、QCD(品質・コスト・納期)の最適化に貢献いたします。
特殊・特注のインチねじに関する技術相談、お見積り、現物からの再現のご依頼は、お気軽にお問い合わせください。