技術コラム
溝付きナットとは?特徴、種類、ピンを活用した緩み止めの仕組みを徹底解説!
本記事では、溝付きナットの基本構造や主な用途から、JIS規格における1種・2種の見分け方、物理的な脱落防止の仕組みまでを詳しく解説します 。
溝付きナットとは?基本構造と主な用途
溝付きナットとは、一般的な六角ナットの上面や側面に複数の溝(スリット)が切られた特殊な形状のナットです 。この溝は通常、対辺方向に6箇所設けられており、締結後にボルトの穴と位置を合わせて使用します 。
最大の特徴は、その形状に由来する名称にあります。特に頭部が円筒状に高く、そこに溝が彫られたタイプは、その姿が西洋の城の塔(銃眼)に似ていることから「キャッスルナット」とも呼ばれています 。
主な用途は、振動や衝撃が加わる過酷な環境下での締結です。万が一ナットが緩んだ際に重大な事故に直結する、自動車の足回りやステアリング機構、鉄道車両の連結部、航空機、大型産業機械などの「重要保安部品」の締結に広く採用されています 。
溝付きナットの種類と規格(1種・2種の違い)
溝付きナットは、その形状や構造によってJIS規格(JIS B 1185)で複数の種類に分類されています 。設計エンジニアが製品を選定する際、特に重要となるのが「1種」と「2種」の使い分けです 。これらは六角部の構造が異なるため、締結箇所のスペースや要求される安全性、作業性に応じて適切に選択する必要があります。
溝付きナット「1種」の構造
溝付きナットの1種は、標準的な六角ナットの上面に直接、放射状の溝が切られている形状です 。
溝付きナット「2種」の構造
2種は、六角ナットの片側が円筒形に延長され、その円筒部分に溝が加工されている形状です 。

主要な規格と対応領域
標準規格品としては、一般的に以下の範囲で製作・流通しています。
- 呼び径(サイズ): メートルねじの場合、M5からM36までが標準的な対応範囲です 。
- 材質の選択: 鉄・炭素鋼(S45C等)、ステンレス(SUS304、SUS316)、真鍮などが主に用いられます 。
- 表面処理: 防錆や耐久性向上のため、黒染め、ユニクロメッキ、三価ホワイト、無電解ニッケルメッキなどが標準的に施されます 。
割ピンを活用した「緩み止め・脱落防止」の仕組み
溝付きナットの最大の特徴は、割ピンと組み合わせることで得られる強力な緩み止め・脱落防止機能です 。他の緩み止め手法が摩擦力や接着剤の化学的性質に依存するのに対し、溝付きナットは物理的な障害によってナットの回転を阻止します 。
物理的に回転を阻止する構造
溝付きナットを用いた締結では、まず相手側となるボルトの軸部にピンを通すための貫通穴をあける必要があります 。ナットを規定のトルクで締め付けた後、ナット上面または円筒部の「溝」とボルトの「穴」の位置を合わせます 。そこに割ピンを差し込み、ピンの先端を外側に折り曲げて固定することで、ボルトとナットが物理的に一体化されます 。これにより、振動や衝撃が加わってもナットが独立して回転することができない状態を作り出します 。
脱落防止における信頼性
この仕組みは、高い安全性が求められる産業機械や輸送機器などの締結において極めて有効です。
- 物理的なストッパー機能: 万が一、過酷な振動によって初期の締結力が低下し、ナットが緩む方向に動こうとしても、割ピンが物理的な障壁となり、それ以上の回転を阻止します 。
- 完全脱落の回避: ナットが数回転緩んだとしても、ピンが挿入されている限りナットがボルトから外れることはありません 。これにより、部品の飛散や接続部の破断といった致命的なトラブルを未然に防ぎます 。
- 目視による確実な点検: 割ピンの有無や折り曲げの状態を外部から容易に視認できるため、日常的な点検作業において締結状態の健全性を迅速に確認することが可能です 。
使用上の留意点
溝付きナットを使用する際は、必ずボルト側の穴加工と割ピンの併用が前提となります 。ナット単体では一般的な六角ナットと同等の機能しか持たず、物理的な緩み止め効果は発揮されません 。また、ボルトの穴位置とナットの溝を合致させるために微調整が必要となる場合があり、精密な位置決めが求められる設計においては、その調整しろを考慮した選定が重要です 。
設計・調達時に直面する「溝付きナット」の課題と解決策
溝付きナットは物理的な緩み止め効果に優れる一方で、設計上の制約や調達時の課題が生じやすい部品でもあります。特に精密機器や特殊な環境下で使用される場合、JIS規格に基づいた市販品だけでは解決できないケースが多々見受けられます 。
スペース不足による「高さ(厚み)」の制約
設計において最も頻繁に直面する課題は、設置スペースの制限です。JIS規格品の溝付きナットは、割ピンを通すための溝の深さや強度を確保するため、通常の六角ナットよりも厚みが大きくなる傾向があります 。筐体内部の狭小スペースや他の部品との距離が近い箇所では、この高さが原因で取り付けが不可能になる事例が少なくありません 。こうした課題に対し、市販品をベースとして底面を旋盤加工で削り出し、必要な寸法まで高さを落とす精密な追加工が有効な解決策となります 。
特殊材質や表面処理への要求
使用環境によっては、標準的な炭素鋼では性能が不足することがあります。海水にさらされる環境や薬品を使用する設備では、耐食性に優れたステンレス(SUS304やSUS316)だけでなく、チタンなどの難削材が求められることがあります 。また、特定の防錆性能を維持しつつ、導電性や潤滑性を持たせるために、黒染めや無電解ニッケルメッキといった表面処理を個別に施したいという要望も多く存在します 。さらに、移動体の軽量化や耐腐食性向上を目的とした金属部品の樹脂化というニーズも高まっています 。
規格外サイズや特殊ピッチへの対応
特殊な機械設計においては、標準規格外の仕様が必要となる局面があります。微細な調整が必要な箇所では、細目(さいめ)ねじや極細目ねじの溝付きナットが必要になりますが、これらは市販の在庫品では入手が困難です 。また、海外製機械のメンテナンスにおいては、ユニファイねじ(UNC/UNF)やウィットねじなどのインチサイズが求められることもあります 。試作段階などで数個単位の供給が必要な場合、多くの商社では対応に制限があることが、設計・調達における大きな壁となっています 。
特注ネジ加工・製作センター.comだからこそ可能な「溝付きナット」の特注対応
特注ネジ加工・製作センター.com(運営:株式会社山崎)では、標準的な規格品では対応できない特殊な「溝付きナット」のご要望に対し、高度な加工技術と提案力で応えています 。ネジに精通したプロフェッショナル集団として、お客様のQCD向上に貢献いたします 。
市販品への精密な「追加工」による最短解決
設計上の制約で、市販の溝付きナットでは高さ(厚み)が合わず、スペースに収まらないという課題は非常に多く見られます 。当社では、市販品をベースに底面を旋盤で削り出し、ご希望の高さに調整する精密な追加工を行っております 。また、切削により露出した金属部には、自社管理のもとで再メッキを施すため、防錆性能や耐久性を損なうことなく製品化が可能です 。
1点からの単品製作・試作への柔軟な体制
当社は自動加工設備と熟練の技術者を擁しており、高精度な溝付きナットを1点から製作可能です 。
- 幅広い対応範囲: メートルねじ(M5〜M36)はもちろん、特殊なピッチやインチねじ、ウィットねじ等にも幅広く対応します 。
- 特殊材質への対応: 炭素鋼やステンレス、真鍮だけでなく、チタンなどの難削材や樹脂製部品の製作も承ります 。
- 一貫対応: 試作から量産、加工から熱処理・メッキなどの表面処理までワンストップで管理し、品質のばらつきを抑えた安定供給を実現しています 。
現物からのリバースエンジニアリングと提案力
図面が手元にない古い機械の部品や、海外製の特殊なパーツであっても、現物をお預かりして採寸・設計を行う「リバースエンジニアリング」の実績が多数ございます 。また、単に指示通り製作するだけでなく、使用用途に応じて最適な材質や形状を分析し、コスト削減や性能向上に繋がるVE提案も実施いたします 。他社で断られた高難度の相談も、当社の技術者が柔軟に解決いたします 。
溝付きナットの製品事例をご紹介!
M8用溝付きナット 底面追加工

製品への組み込みを検討されていたお客様は、市販の溝付きナットでは高さが原因で、スペースに収まらず取り付けができないという課題に直面されており、当社にご相談いただきました。
この課題に対し、当社は市販品に対して、底面を旋盤加工で切削し、ご希望の高さに調整する追加工をご提案・実行いたしました。加工後の錆対策として再メッキを施し、製品の耐久性も確保しました。
溝付きナットの特注製作・追加工なら、株式会社山崎にお任せください
特注ネジ加工・製作センター.comを運営する株式会社山崎は、長年にわたり多様な特殊ネジ・ナット・リベットの製作を手掛け、大手メーカー様をはじめとする多くのお客様から信頼をいただいております 。溝付きナットにおいて、JIS規格などの市販品では解決できない「高さの制約」「特殊な材質」「小ロットでの調達」といった課題に対し、当社は設計エンジニアの視点に立った最適な解決策をご提案いたします 。